東京家庭裁判所 昭和43年(少イ)6号 判決
被告人 株式会社 月ヶ瀬
右代表取締役 伊藤佐太郎
保坂鉄五郎
寺島健一
斉木正夫
小川嘉雄
大塚満
一、被告人(編省略)
二、主 文
(一) 被告人保坂鉄五郎を罰金五、〇〇〇円に、
被告人寺島健一を罰金一万円に、
被告人斉木正夫を罰金三、〇〇〇円に、
被告人小川嘉雄を罰金一万円に、
被告人大塚満を罰金一万円に、
処する。
右被告人等が右罰金を完納できないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
(二) 被告会社株式会社月ヶ瀬を罰金八万円に処する。
(三) 被告人斉木正夫については、この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。
(四) 被告人保坂鉄五郎の別表一の(三)記載の事実は無罪とする。
(五) 訴訟費用は、被告会社および被告人保坂鉄五郎、同寺島健一、同斉木正夫、同小川嘉雄、同大塚満の連帯負担とする。
三、理 由
(一) 被告人等に対する公訴事実
被告会社は東京都中央区銀座東六丁目六番地に本社をおいて、和洋菓子類その他の食料品製造販売、和洋酒類および各種飲料の販売、料理飲食店経営等の事業を営むもの、被告人らはいずれもその社員で、被告人保坂は取締役経理部長として、被告人寺島はレストラン事業部第一営業所支配人として、被告人斉木は同営業所調理部主任として、被告人小川は同部第二営業所支配人として、被告人大塚は営業第三営業所店長として、それぞれ労働者に関する事項について被告会社のために行為するものであるが、被告人らは被告会社の業務に関し、一週間の労働時間が四八時間を超えず、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに
1 被告人保坂は別表一、年少者時間外労働一覧表記載のとおり、昭和四二年八月二〇日から同年九月九日までの間、前記本社において、満一五歳以上で満一八歳に満たない労働者○根○子他一名に対し、一日について三〇分ないし、三時間にわたる時間外労働をさせ
2 被告人寺島は、別表四(但し○口○儀に関する記載部分を除く)年少者時間外労働一覧表記載のとおり、同年八月二〇日から同年九月一六日までの間、東京都中央区銀座五丁目一番地同会社レストラン事業部第一営業所において、前同様の労働者○藤○孝外四名に対し一日につき三〇分ないし五時間にわたる時間外労働をさせ
3 被告人寺島および同斉木は共謀の上、別表四、年少者時間外労働一覧表中○口○儀欄記載のとおり同年八月二〇日から同年九月一六日までの間、前2、記載の場所において、一日について一時間ないし四時間にわたる時間外労働をさせ
4 被告人小川は別表五、年少者時間外労働一覧表記載のとおり、右同期間、右事業部第二営業所において、前同様の労働者○原○一他三名に対し、一日について一時間ないし三時間三〇分にわたる時間外労働をさせ
5 被告人大塚は別表六、年少者時間外労働一覧表記載のとおり、右同期間、右事業部第三営業所において、前同様の労働者○上○重他五名に対し、一日について二時間ないし三時間三〇分にわたる時間外労働をさせたものである。
(二) 保坂鉄五郎に対する公訴事実の判断
1 罪となるべき事実
公訴事実中別表一の(二)の年少者時間外労働一覧表記載の事実
2 証拠霞標目(編省略)
3 当裁判所の判断
弁護人は、○島○子については、昭和四二年八月二八日、九月八日は掃除当番のため早出を命じ、また八月二三日、二四、二五日は残業を命じたことはあるが、その他の日は○島○子が交通の混雑時を避けて早出をし、また終業後身仕度のため退社までに二〇分ないし三〇分の時間を費したため別表一の年少者時間外労働一覧表実働時間欄記載の時間在社していたもので、これらの時間を除いたものが実働時間で、前記二日以外は時間外労働はしていないと主張する。
証拠標目ニないしリによれば、○島は交通の混雑時を避けるためと、入社当初事務見習のために早目に出勤していたのが習慣となつて、以来業務開始時より三〇分ないし一時間早く出勤するのが通常であつたこと、特に多忙な時期以外は出勤後業務開始時である午前八時三〇分までは自分の自由な時間であつたこと、毎月二回は掃除当番として早出するよう保坂から命ぜられており、昭和四二年八月二九日、九月八日は掃除当番であつたこと、また毎月二五日の給料日前は計算事務が多忙のため、○島は毎月二三日頃から残業することがあつたこと、午後五時三〇分が終業であるが、それから身仕度を整え、二、三〇分経つて退社するときにタイムレコードを押していたことが認められる。最近の交通事情からみて勤労者がラッシュ時を避けて自由意思で始業時より早く出勤するのは、その心掛けを賞賛すべきことである。もし会社がそれをよいことに時間外労働をさせたというのであれば別であるが、強いて定時に出勤するよう規制しないからといつて、時間外労働をさせた責任を問うのは、労働基準法の年少労働者保護の要請からいつても行きすぎである。また終業後事務担当の女子社員が身仕度に費す時間は当然実働時間から除外すべきである。従つて、○島○子の時間外労働は、昭和四二年八月二三、二四、二五日の給料計算のための早朝勤務と残業、八月二八日、九月八日の掃除当番のための早朝勤務のみを認め、その他の別表一の超過時間欄の時間外労働(別表一の(三))は認めない。従つてこの部分については、保坂は無罪である。また弁護人は○島○子の早出は自主的なもので、時間外労働ではないと主張するが、証拠標目ハ、チによると○根は昭和四二年七月頃から計算機取扱事務を命ぜられ、その技術習得のため進んで時間外労働をしていたこと、○根の担当事務は人手不足で非常に多忙であつたことが認められるので、○根については早朝勤務をしていたものと解し、別表一のとおり時間外労働を認める。
(三) 寺島健一に対する公訴事実の判断
1 罪となるべき事実
公訴事実記載のとおり
2 証拠標目(編省略)
3 当裁判所の判断
被告人および弁護人は被告会社レストラン営業部においては昼食、夕食時間各三〇分の休憩時間の外午後一時から五時までの間に二時間ずつ従業員が自由に利用することのできる解放時間ともいうべき休みが与えられていたので、これを控除したものが実働時間であると主張する。
証拠標目ハニホヘトによれば、被告会社第一営業所は午後一時から五時頃までの間は、レストラン営業が比較的暇な時間なので、その間調理およびサービスの従業員に、交替で一時間から二時間の自由時間を与えていたこと、土曜、日曜は多忙のため与えていないことが認められる。従つて、この自由時間は、その日その日の営業の繁閑の見込によつて与えられるもので、全く会社の一方的都合によつて与えられるのであるから、何らかの事情で、営業が急に多忙になれば直ちに従業員が召集されることも考えられ、会社の指揮監督を離れて従業員が全く自由に利用できる休憩時間とはいえず、むしろ被告会社レストラン営業部の特殊事情によつて与えられる手待時間と認めるのが相当である。
(四) 斉木正夫に対する公訴事実の判断
1 罪となるべき事実
公訴事実のとおり
2 証拠標目(編省略)
3 当裁判所の判断
被告人および弁護人は斉木は第一営業所調理部主任にすぎず、営業所支配人および調理部料理長の指揮監督下にある者で、自己固有の権限をもつて他に命令指揮する権限はないから労働基準法第一〇条いわゆる使用者に該当しないと主張する。
証拠標目ロハニホによれば、被告会社第一営業所調理部の料理長は当時欠員になつていたため、料理部長の島田武房がこれを兼務していたが、出張料理の調製を除く、営業所内の日常の調理部の運営事務については、島田の代理として調理部の先任主任である斉木がこれを行なつていたこと、調理部の従業員は島田の他、主任である斉木は毎日作成する残業日報を寺島に報告していたことが認められる。
従つて、被告会社の職制上はともかくとして、斉木が第一営業所の料理長島田武房の代理権限を行使することが認められていた以上、斉木は調理部の労務関係責任者として、第一営業所支配人寺島健一と共謀の上で、調理部従業員○口○儀に時間外労働をさせたものというべきで使用者としての責任は免がれない。
(五) 小川嘉雄に対する公訴事実の判断
1 罪となるべき事実
公訴事実のとおり
2 証拠標目(編省略)
3 当裁判所の判断
被告会社第二営業所においても午後一時から五時までの間に一ないし二時間の解放時間があつたという被告人および弁護人の主張については、証拠標目ホないしルを総合の上、(三)の被告人寺島健一に対すると同じようにこれは手待時間であると判断する。
(六) 大塚満に対する公訴事実の判断
1 罪となるべき事実
公訴事実の中別表六の(二)年少者時間外労働一覧表に記載する時間外労働をさせた事実
2 証拠の標目(編省略)
3 当裁判所の判断
被告人および弁護人は従業員に時間外勤務をさせるときは一時間の休憩時間のほか三〇分の休憩を与えていたから、この時間を差し引いたものが時間外実働時間であると主張する。
証拠標目チルオによれば、時間外勤務をするときは第三営業所においては、必ず三〇分の休憩が与えられていたことが認められ、この時間は使用者の指揮監督を離れ、時間外勤務をする従業員が自由に休むことができる休憩時間で、手待時間ではないと解される。
従つて、別表六、年少者時間外労働一覧表の八時間を超える実働時間から三〇分を差し引いた別表六の(二)記載の超過時間が時間外実働時間となる。
(七) 被告会社に対する公訴事実の判断
罪となるべき事実は被告人保坂鉄五郎に関する部分は別表一の(二)のほか公訴事実記載のとおり証拠標目は前記のほか被告会社登記簿謄本
(八) 法令の適用
1 被告人保坂、小川、大塚、寺島、斉木に関わる右認定事実は、いずれも労働基準法第六〇条第三項、第一一九条第一号に該当するが、このうち罰金刑を選択する。
(寺島と斉木の○口○儀に関する事実については刑法第六〇条適用)各被告人につき年少労働者各人が時間外労働をなした一日につき一罪が成立するものと解するので刑法第四五条前段の併合罪として同第四八条第二項の罰金合算額の範囲内において各被告人の情状を酌量した上主文第一項記載のとおり量刑し、労役場留置について刑法第一八条第一項によりこれを定める。
被告会社に対しては労働基準法第六〇条第三項、第一一九条、第一二一条第一項刑法第四五条前段第四八条第二項を適用して主文第二項のとおり量刑する。
2 被告人斉木は被告会社第一営業所の調理部主任で、被告会社の職制からいえば、同営業所には調理部主任の上に料理長がいて、調理部の労務関係について指揮監督することになつているにも拘らず、料理長が欠員で料理部長がこれを兼ねていたため、その代理として、調理部の労務関係についてこれを指揮監督しなければならなかつたもので、その地位から見て、他の役職についている被告人らと同じ責任を負わすのは、まことに同情に堪えない。よつで同人の前科照会回答書により前科のないことが認められるので、刑法第二五条第一項により、主文第三項のとおり執行猶予に附する。
3 被告人保坂鉄五郎に対する別表一の(三)年少時間外労働一覧表記載の時間外労働をさせた事実は刑事訴訟法第三三六条により無罪とする。
4 訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により被告会社および各被告人等の連帯負担とする。
(裁判官 三淵嘉子)
(別表編省略)